医学部入試と言えば合格難易度が非常に高く、地方国公立大学でも東大合格レベルの学力が必要と言われているくらいです。
そんな医学部入試ですが、難易度の状況や昨今の医療業界の状況を踏まえながら今後の受験状況について詳しく紹介していきます。
近年の医学部受験ブームで難易度上昇状態はどうなった?
2008年以降のリーマンショック以降、空前の医学部受験ブームが続き、難易度は急上昇しました。
就職氷河期を経験した世代が親になり、「わが子が食いっぱぐれないように」と資格を有した仕事につける大学を勧める傾向にあることも原因の一つにあるようです。
加えて超少子化が進んだことで、普通のサラリーマン家庭でも一人っ子であるのならば医学部に進学させることが可能になりました。
このような背景から医学部を目指す層が大きくなり多くの高校や予備校がそこに便乗する形で医学部受験コースを設置・強化することでさらに医学部受験は難易度・倍率が上昇しました。
2018年以降そのブームは以前に比べて下火になってきましたが、依然として他学部にくらべ人気・難易度は高いままで偏差値65以下では医学部合格は厳しいとされています。
医学科に受験生が集まる理由
流行の影響・腕試し感覚
医学部受験ブームにあやかって多くの進学校に通う学力優秀な高校生が他の理系学部ではなく、医学部を目指しています。
実際、東大や京大の理系学部を受験せずに地方国公立大学医学部を受験する生徒が増えているのだとか。
これに伴い、純粋に医師を目指す受験だけでなく、なかには腕試し感覚で受験している層も増えいてることが懸念されています。
したがって、2020年には九州大学医学部が面接試験を導入して全大学で面接試験が必須になったように、大学側も医師としての適性や本気度を見極めることに力を入れ始めています。
医師の安定した職業
医師と言う職業は、人材不足もあやかって仕事に困ることはないと言われています。
しかも、給与は高く、勤務医でも年収1000万円以上を稼いでいるひとは多く、医師としての世間の評判も高い。
したがって、安定した収入と地位の両方が得られる医師という仕事に魅了される人は昔から多いです。
これに伴い、他学部に比べて再受験組が多いのも医学部入試の一つの特徴だと言えるでしょう。
私立大学医学部の学費値下げ
昔は私立大学医学部の学費はどこも高額で3000万円や4000万円台のところがほとんどでした。
したがって、サラリーマン家庭では私立大学医学部に通わせることは困難で、私立は受験者数が限られていたのです。
しかし、近年は相次ぐ私立大学医学部の学費値下げが実施され、2000万円台前半で通える大学が増加。
また、奨学金制度の拡充や地域枠の誕生によって、学費負担の軽減が可能となり、多くの受験生が狙えるようになりました。
2021年度入試はどうだった?
医学部入試の難易度は高いままなのか、直近に実施された2021年の入試結果を踏まえて考察してみましょう。
ここでは、河合塾のデータを基に国公立大学・私立大学別に入学定員推移や難易度を確認していきます。
国公立大学医学部
国公立大学医学部医学科の入学定員推移
年度 | 入学定員 | 前期日程 | 後期日程 | 推薦・AO |
---|---|---|---|---|
2020 | 5,509 | 3,597 | 408 | 1,461 |
2020 | 5,496 | 3,581 | 454 | 1,445 |
2019 | 5,558 | 3,635 | 524 | 1,368 |
2018 | 5,558 | 3,668 | 539 | 1,335 |
2017 | 5,571 | 3,686 | 541 | 1,329 |
2021年度は前年と比べ定員はさほど変化していません。
志願者人数に関しては、近年国公立医学部は若干の減少傾向にあり、一時より難易度は下がりましたが、2021年度は前期日程での志願者数は増加しました。
共通テスト受験生の人数が2万人強減少したことも考慮すると、国公立の医学部人気が復活したといえそうです。
また、東海・近畿・関東の大学が前年にくらべ大きく志願者数を増加させたのに対し、北海道・東北・北陸など一部の地方都市は減少傾向にありました。
これはコロナ渦の影響で大都市の受験生が、県をまたいだ移動を避けたのではと推測できます。
例外的に四国は大幅に志願者数を増加させましたが、これは香川大学や愛媛大学が後期試験を廃止し、前期試験の定員を多くしたことにより、共通テストのボーダーや二次科目を考慮したうえで「難易度が下がり合格しやすい」と判断した受験生が集中したと考えられます。
私立大学医学部
私立大学医学部医学科の入学定員推移
年度 | 入学定員 | 一般方式 | センター方式 | 推薦・AO | その他 |
---|---|---|---|---|---|
2021 | 3,643 | 2,571 | 305 | 638 | 38 |
2020 | 3,629 | 2,573 | 353 | 543 | 38 |
2019 | 3,646 | 2,641 | 351 | 472 | 37 |
2018 | 3,645 | 2,664 | 360 | 432 | 39 |
2017 | 3,633 | 2,641 | 376 | 440 | 36 |
2021年、私立医学部の定員は一般入試・共通テストの定員が減少し、推薦・AO入試の定員が大きく増加しています。
これは医学部以外の学科にもみられる傾向です。
しかし医学部は依然として定員の7割~8割は一般試験を占めている状態です。
一般入試の志願者人数は、受験人口の減少や、コロナの影響で1人あたりの受験校数が減少したこともあり、前年度に比べて90%ほどと減少しました。
2019年以降から一般入試の倍率は徐々に下降してきてはいますが、他学科に比べると医学部の入試は全体で13倍程度と他学科に比べると著しく高く難易度も高いといえます。
2022年度の医学部入試・難易度はどうなる?
一般入試志願者数は国公立・私立共にやや減少傾向
2022年度の一般入試は医学部全体的に志願者数が減少傾向となりました。
国公立医学部は2021年度は志願者増の動きがみれれましたが、2022年度は減少に転じました。
志願者数減少の原因は共通テスト理系科目の難易度上昇があげられます。
特に数学の難易度があがり、生物も読解の難易度があがりました。
医学部に対して薬学部は志願者が増えていることから、もともと医学部をめざしていた層が共通テストの結果を受け安全策をとり難易度の高い医学部を避けた可能性が高いと考えられます。
私立大学医学部も一般入試志願者減少がみられました。
これは、前年同様コロナで県をまたぐ移動を避けたことで、試験開催都市に制限がある大学の志願者が減ったと考えられます。
試験問題の難易度は変化した?
試験問題難易度は各大学によって多少のばらつきはありますが、易化傾向にあるといえます。
特に近年私立医学部は解きにくい問題は減少し、現役生であっても基本的な内容がおさえられていれば解答できるような問題をとりいれるようになってきています。
今年度もその傾向は続いているようです。
ただし、難易度は低下しても問題量を多く課すことで正確に早く処理をさせるような問題も多くみられるので対策は必要です。
多浪生や医学部再受験生は難易度が上がる?
近年医学部受験では女子生徒や多浪生に対する差別が問題になり、多く報道されることで、その差別は改善されつつあるといえます。
現に2021年度は女子生徒の合格者が男子生徒を上回りました。
しかし、医学部入試は面接や小論という明確に得点化しにくい選抜基準があるのでブラックボックス化が完全に解消したとは言えないでしょう。
また、近年入試問題難易度が易化した分、門戸が広くなり現役生が入りやすくなりました。
学校推薦・総合選抜・地域枠などの枠が増加し、一般選抜の枠が減少したこともあり、ひきつづき多浪生・再受験生にとっては厳しく、合格するためにはペーパーでより高い得点をとる必要があり合格難易度は高くなっていくと予想されます。
新型コロナの影響はどうだった?
2021年・2022年度ともにコロナの影響により受験の為の大幅な移動を避けた受験生がいたことから私立医学部全体ののべ志願者数は減少しています。
医療逼迫のニュースが頻繁に流れることで、「勉強ができるから何となく医学部に行く・難易度が高い医学部に合格することで自分の学力を証明したい」と考える生徒は減ることになるでしょう。
しかし、現段階では1人あたりが受験する大学数が減ってはいても、医学部を志望する受験生の数が大幅に減少しているわけではなく難易度が低下したとはいえません。
国策による定員増加の終了で合格難易度が上がる?
2021・2022年度も地域枠・推薦枠定員は増加しています。
地域枠は年齢制限や卒業後の制限が多いため敬遠する受験生も多く、推薦試験枠は成績を満たしている者の母体が少ないため、倍率から考えてもこれらの難易度は上昇しないと考えられます。
対し、共通テスト利用・一般はさらに枠が狭くなるため倍率の点では難易度が若干高くなることが予想されます。
2023年度の医学部入試はどうなる?必要な勉強と対策
気になる医学部医学科の定員は?
医師需給分科会では「2023年度から地域枠の設置・増員を進めながら、臨時定員を含む医学部入学定員を段階的に減員していく」方針を固めました。
2022年3月現在各大学の具体的な定員人数はでていません。
しかし、一般入試に占める定員数が今後減少するのは間違いないでしょう。
一時の医学部ブームほどの人気はなくなったため、ピーク時に比べての倍率の高さにはならないでしょうが、以前として高い難易度となりそうです。
入試の主な変更点はある?
2023年度入試についての詳細はまだ発表されていない大学がほとんどですが、広島大学など一部の大学は共通テストの得点配分の変更、岐阜大学では後期試験の廃止などをHPで発表しています。
今後、募集人数、共通テスト利用の有無、国公立大学ならば共通テストの配分など詳細がアップされるので、志望大学がある程度決まっている場合には定期的にHPなどをチェックすることをおすすめします。
2023年度医学部入試にむけての対策
現役生の場合
総合選抜・地域枠・提携校推薦・指定校推薦が圧倒的に有利です。
今後、これらの枠はさらに増加することが予想されます。また、総合選抜の試験は一般試験や共通テストに比べ問題難易度が低いです。
浪人生にくらべ受験対策時間が少ないであろう現役生は一般試験の前にこちらの様式を狙うことをおすすめします。
推薦の場合は、内申書はもちろん出席日数や、課外活動や英検資格なども重要視されますので高1・2年の段階から推薦を意識した行動をとってください。
国公立の場合は、推薦であっても共通テストを課す場合が多いので、基礎的な学力充実をこころがけましょう。
浪人生の場合
一浪の場合は、総合選抜や地域枠の受験資格がある大学も多いので、現役生同様にまずはこれを狙うことをおすすめします。
ただ、難易度はそれほど高くなくとも浪人生が受かりにくいとされる大学も存在するので、医学部予備校などに所属し過去の合格者の傾向を確認することをおすすめします。
内申が足りなかったり、多浪の場合はとにかく学力試験で圧倒的点数をとることを目指してください。
長い間勉強すると、難しい問題ばかりに目がむいてしまい、基礎的な内容がおろそかになりがちです。
「やった覚えがある」「解答を少し読めば思いだす」では合格できません。
近年医学部入試問題の難易度は低下しており、一部の大学を除いては解きやすい問題が増えています。
基本的知識の穴がないような緻密な勉強を行ってください。
再受験生の場合
再受験の場合は編入と一般試験での入学のどちらかになります。
編入の場合、面接・英語・生命科学を必修にする大学が多いですが、大阪大学では物理学、弘前大学では数学などを課す場合もあります。
問題の難易度は大学レベルですので高いといえます。
国公立大学では多く編入試験を設けていますが、私立大学は岩手医科大学・東海大学・獨協大学・北里大学と非常に限られていますので、国公立を狙うべきでしょう。
医学部の編入試験は倍率・問題の内容の観点から難易度が高いといえますが、対策次第では不可能ではありません。
文系出身者も一定数合格しています。
しかし、自己流での対策は難しいので編入を狙う際には編入専門の医学部予備校に相談することがおすすめです。
一般試験での再受験を目指す場合は、学力面・年齢面を考慮すると難易度は高いです。
また面接に関しても、社会経験を積んだ受験生に対しての期待値が大きいため難易度は上がります。
学力に自信がない場合は、帝京大学や東海大学など科目数を減らして受験が出来る大学や基本的な問題を中心に出題する問題の難易度が低い大学に絞った対策を行うことも得策でしょう。
【2023年】難易度の高い医学部入試の大学の選び方
大学内で問題があったり入試選抜方法に問題があった場合は翌年の志願者数が減り合格難易度が下がるとの見解もありますが、多くの場合私立医学部入試における志願者数はその年の募集人数と試験実施日(他の大学とかぶっていないか)および実施する試験会場の数に大きく依存する傾向にあります。
東京医科大学も2018年不正入試が発覚し2019年度入試は志願者が大幅に減少しましたが、これは不正入試による信用性が失われたことが原因である以上に募集人数が75名から38名に減少したため受験生が敬遠したようです。
現に2020年以降募集人数が戻るとともに志願者数の増加がみられました。
難易度を示す偏差値も2018年度以降、あまり変化はありませんでした。
また他大学と入試日程がかぶったことで年度によって志願者数が減る場合もありますので、前年度の志願者数を参考にして志望校を決める場合は注意が必要です。
国公立大学医学部の志望者数は隔年現象が顕著に出て合格難易度を左右しますので、前年度の志願者数をしっかり把握して受験校を選びましょう。
国公立の場合は繰り上がり合格はほとんどなく、合格の難易度は志願者数に大きく依存するといえます。
偏差値的に難易度がそれほど高くない大学でも倍率が上昇しそうな場合は合格難易度は上がりますので、出願は慎重に行って下さい。
まとめ
合格難易度は入試問題の難易度と倍率の難易度で決定します。
今後は「医師過剰」になると医師需給分科会で厚労省が推計をだし、2023年以降は地域枠を増やしながら段階的に全体の医学部定員を減らしていく方針であることが決定しています。
地域枠以外の一般入試枠が減らされるのは確実です。しかし、それと同時にブームであった医学部志望者数も一時期のピークに比べ落ち着きつつあります。
結果、倍率の観点からみた医学部全体の難易度は先数年それほど変化がないと考えられます。
過去2年私立医学部全体で一般入試の倍率は下がっていますが、これはコロナの影響で複数の大学を受ける生徒が減少したこと、受験日程がかぶってしまうことで複数の大学が受けられなかったことが原因になっている可能性がたかく、医学部全体では今後著しく倍率による難易度が変化することは考えにくそうです。
しかし、私立大学の入試問題の難易度は確実に低下しています。
しっかり基本をおさえ入試に臨めば合格点をとれるようになってきているので、各大学の倍率に依存する難易度に左右されないほどの学力を身に着けることで医学部合格を確実なものにしてください。